MakerBotはなぜ「負けた」のか — オープンソースを裏切った代償

2010年代初頭、3DプリンターのシンボルといえばまずMakerBotだった。なぜ彼らは失墜したのか。これは3Dプリンター業界史上もっとも語られるべき教訓の一つだ。

MakerBotの全盛期

Bre Pettis、Adam Mayer、Zach “Hoeken” Smithの3人がMakerBotを設立したのは2009年。RepRapをベースにしたCupcake CNPが最初の製品だ。

彼らがやったことは単純だが効果的だった:RepRapを「誰でも使えるキット」に変えて売った。Thingiverseという3Dデータ共有サイトも立ち上げ、コミュニティの熱量がそのまま販売力になった。

2012年発売のReplicator 2は当時最高の家庭用3Dプリンターと評価された。TED Talkに登場し、オバマ政権の”Maker Movement”キャンペーンにも乗った。まさに時代の寵児だった。

2013年の転機:Stratasys買収

2013年6月、MakerBotは工業用3Dプリンター大手Stratasysに約4億ドルで買収された。ここから歯車が狂いはじめる。

Replicator 2まではオープンソースだった設計が、Replicator 2X以降はクローズドになった。コミュニティは激怒した。共同創業者のHoeken(Zach Smith)は公開書簡でMakerBotを批判、Bre Pettisも2014年に会社を去った。

品質問題と信頼の崩壊

Stratasys傘下で出した5th世代Replicatorは、スマートエクストルーダーと呼ばれる新設計のホットエンドを搭載したが、これが問題だらけだった。詰まり、断線、保証交換の繰り返し。Amazonのレビューは壊滅的になった。

それまでコミュニティが無償で直していた不具合が、クローズドになったことで修正される機会を失った。オープンソースの強みを自ら捨てた結果だ。

Creality Ender 3という刺客

2018年、中国のCrealityが2万円以下でEnder 3を発売した。MakerBotの同等機種は8〜15万円。勝負にならなかった。

2022年にはMakerBotの従業員の大部分が解雇され、事実上の終焉を迎えた。2023年に親会社Stratasysはブランドの一部をUltimakerと統合する形で整理した。

教訓

MakerBotの失敗から学べることは二つだ。

  1. コミュニティを裏切ると、コミュニティは離れる。 3DPのような技術領域ではオープンソースのエコシステムが競争優位そのものだ
  2. 大企業による買収がスタートアップのDNAを壊すことがある。 Stratasysの論理とMakerBotのカルチャーは根本的に相容れなかった

Prusaが今も独立を保ち、Bambu Labが一気に躍進できたのは、MakerBotが教えてくれた反面教師があったからかもしれない。