3Dプリンターを買う前に必ず直面する選択:FDMかSLAか。ネット上の比較記事はたいてい「用途次第です」で終わる。それは正しいが、役に立たない。もっと具体的に話す。
FDMの仕組みと特徴
FDM(Fused Deposition Modeling)はフィラメントと呼ばれるプラスチックの糸を熱で溶かし、ノズルから押し出して積み上げる。Bambu Lab、Prusa、Creality Ender系がすべてFDMだ。
メリット:
- 素材の種類が豊富(PLA、PETG、ABS、TPU、炭素繊維入り等)
- 印刷物の強度が高い(実用部品に使える)
- メンテナンスが比較的わかりやすい
- フィラメントのランニングコストが安い(1kgで2000〜4000円)
- 失敗しても素材のロスが少ない
デメリット:
- 積層線(レイヤーライン)が目立つ
- 細かいディテールはSLAに劣る
- 速度と精度はトレードオフ(ただしBambu Labの登場で改善)
SLAの仕組みと特徴
SLA(Stereolithography)およびMSLA(LCD方式)は液体の光硬化樹脂(レジン)に紫外線を当てて固める。Elegoo Saturn、Anycubic Photoシリーズが代表例。
メリット:
- 精度が高く、表面がなめらか
- 細かいディテールの再現性が圧倒的
- フィギュア・歯科・ジュエリーで圧倒的優位
- 本体価格が安い(3〜5万円でも高精度機が買える)
デメリット:
- レジンは有毒・刺激臭あり(換気・ニトリル手袋が必須)
- 後処理(IPA洗浄・UV二次硬化)が毎回必要
- 脆い素材が多い(パーツが割れやすい)
- 廃液処理が面倒(硬化させてから燃えるゴみ。液体のまま捨ててはいけない)
- 造形物の強度が弱く、実用部品には向かないことが多い
ランニングコスト比較
初期費用だけでなく、継続的なコストも重要だ。
FDM(例:Bambu A1 mini):
- 本体:約45,000円
- フィラメント(PLA 1kg):2,500〜4,000円
- ノズル(標準0.4mm):500〜1,500円(3〜6ヶ月ごと交換目安)
- 後処理:基本不要(サポート除去のみ)
SLA(例:Elegoo Saturn 4):
- 本体:約45,000〜70,000円
- レジン(1kg):3,000〜8,000円
- FEPフィルム(底面のシート):1,000〜2,000円(定期交換)
- IPA洗浄液:毎回消費
- UV硬化ライト:5,000〜15,000円(別途必要)
- 手袋・マスク:消耗品
ランニングコストだけ見ると、SLAはFDMより確実に高くなる。後処理の手間も含めると、SLAは「1プリントあたりのコストが高い」趣味だ。
作業環境の要件
これが意外と見落とされる。
FDM:基本的にどこでも置ける。PLA程度であれば特別な換気は不要。ただし印刷中は少し臭う(溶けたプラスチックの臭い)。ABSを使う場合は換気必須。
SLA:換気は絶対に必要。レジンの蒸気は有害で、長時間吸い続けると体に悪い。窓のない部屋や密閉空間では使えない。家族がいる環境では置き場所を慎重に考える必要がある。
初心者にはFDMをすすめる理由
理由は3つだ。
- 失敗のリカバリーが楽 — フィラメントが無駄になるだけ。レジンのように後処理の手間で失敗コストが膨らまない
- 素材の扱いが安全 — PLAは食器にも使われる素材。子どもがいる家でも普通に使える
- 応用範囲が広い — 実用部品からインテリアまで、FDMで対応できる用途がずっと多い
SLAを選ぶべきケース
- フィギュアや模型のディテールにこだわりがある
- 歯科・ジュエリー系の業務用途
- 換気設備のある作業スペースが確保できる
- FDMを既に持っていて、次の一台を探している
- 0.1mm以下の細部を再現する必要がある
FDMとSLAを使い分ける「2台体制」
本格的にやっている人の多くが最終的に辿り着く形は「FDM + SLA の2台体制」だ。
使い方はシンプル:構造部品・実用部品はFDM、表面品質が重要なパーツはSLA。フィギュアのボディをFDMで印刷し、顔だけSLAで印刷して後付けする、といった使い方もある。
ただし最初から2台は不要だ。まずFDMから始めて、SLAの必要性を感じてから追加するのが賢明な順序だ。
迷っているなら、まずFDMから始めること。それがほぼすべてのケースで正解だ。
